" &image=ctgic; &style=stDetail1;2013/06/18 読み物&style;&br; &style=stDetail2;願いごとはひとつだけ&style;&br; &br; 肌を焦がした日差しが弱まり、&br;笹の葉がゆれる黄昏時を越え、&br;無窮の空にミルク色に輝く大河が昇ると、&br;色とりどりの花火が打ち上がる音と共に、賑やかな楽の音が聞こえてきます。&br;&br;今年も銀河祭の季節がやってきました。&br;&br;ヤヒコ皇子とアムディナ姫の伝説を思い起こしながら、&br;好きなあのひとと、祭りに参加してみるのも良いかも。&br;&br;毎年恒例の、いつもの銀河祭。&br;それでも、すべてが同じわけではなくて、&br;&br;今年は、いつもと違うお祭りになったふたりもあるようです。&br;&br; &image=hr02;&br; 「やっぱりMHMUに任せるだけのイベントってつまんないと思うのよね」&br;銀河祭が近づいたある日、&br;リンクシェル『笑う狼』で最もお祭り好きなタルタル娘のチェキキが言った。&br;&br;彼女の提案は、要約すればこういうことだった。&br;&br;カップルを作って、決められた場所をペアルックで練り歩く。&br;歩きながら、即興でパフォーマンスを行う。&br;観客から最も声援を集めたカップルの勝ち。&br;題して、&br;『《笑う狼》主催。第一回、銀河祭ベストカップル・コンテスト!』&br;&br;「なになに? おもしろいこと?」&br;狩人のタマキが、ニコニコしながら尋ね、&br;「か、かっぷるぅ?」&br;ナイトのカイエは、警戒しながら言った。&br;ふたりともヒュームの冒険者で、このリンクシェルの最年少組だ。&br;&br;「そーよ。あんたとタマキみたいな」&br;「ちょ! なんで俺たちを見本みたいに言ってんだよ!」&br;「そーよそーよ!」&br;「はあ。息のあった反論だこと」&br;「違うっての!&br;だいたいさぁ。うちのリンクシェル男女同数じゃねえだろ!」&br;「気にしなくていいのよ、そこは。&br;あたし、カップルが恋人同士だとは、ひとことも言ってないしー」&br;ニヤリと笑みを浮かべられ、&br;うっかり視線を合わせてしまったカイエとタマキは、神速の勢いで顔を逸らせた。&br;&br;「重要なのはね、&br;ペアルックと恥ずかしいパフォーマンスよ!」&br;「は、恥ずか──って、おい!」&br;「あ、間違えた。&br;そこは、《おもしろい》ね」&br;&br;絶対わざとだ、とカイエは思った。&br;&br;「歌ってもいいし、踊ってもいいし、&br;ヤヒコ皇子とアムディナ姫の、アツアツらぶらぶな小芝居でもいいわ!」&br;&br;どっ、と周りのメンバーたちが笑った。&br;《笑う狼》はお祭り好きがそろっているのだ。&br;賛成多数で、チェキキの提案は可決されてしまった。&br;&br;場所はジュノ最上階の《ル・ルデの庭》。&br;時期は銀河祭の初日と決まった。&br;&br;それが一週間前のこと。&br;最初に参加を表明したのが、リンクシェル内の恋人たちだ。&br;それを見て、&br;このときとばかりに告白に踏み切る者が出て、お祭り前にカップルが増えた。&br;こうなると、ますますみな乗り気になってくる。&br;友人同士で装備を合わせて参加を決める者たちまで出てきた。&br;&br;気づけば、カイエとタマキを残してほとんどが参加を決めてしまっている。&br;&br;「やってらんねー」&br;言いながら、笹の葉にカイエは短冊を結びつける。&br;願いを書いた紙を笹に結びつけて祈りを捧げるという風習は、東方のものらしい。&br;この時期になると《ル・ルデの庭》にも大きな笹が立てられ、&br;いつの間にかたくさんの短冊が飾られている。&br;「こんなんで叶ったら、世話ねえけどな……」&br;言いながらも、カイエは東方風に笹に手を合わせて祈ってしまう。&br;&br;「何やってんのよ?」&br;声にぎくりと背中をすくませる。&br;カイエが振り返ると、目の前にタマキが立っていた。&br;「い、いつからそこに?」&br;「今」&br;ぶすっとした声でそう言った。&br;タマキの表情にも気づかずに、カイエはほっと胸を撫で下ろしてしまう。&br;「別に何もしてないぜ」&br;「……まあ、いいけど。で、今日、どうすんの?」&br;「えっ?」&br;「どーせ参加しないんでしょ?&br;見てるだけじゃつまんないし、狩りに行かない?」&br;&br;タマキの提案にカイエは乗った。&br;&br;カイエとタマキはダングルフの涸れ谷に行き、大ミミズを狩り始めた。&br;体長が、ヒュームの倍はある《ワーム》と呼ばれる類の魔虫だ。&image=im00;&br; &image=hr03;&br; 茶色の岩地を歩いていると、大地を割り、いきなり足下から跳び出てくる。&br;全身を鞭のようにしならせて、渾身の一撃を仕掛けてきたりする。&br;「もうちょい粘って!」&br;「任せろ!」&br;楯であるカイエが魔虫の攻撃を引き受け、&br;離れた位置からタマキが弓でとどめを刺す。&br;カイエもタマキも白魔法を覚えているから、&br;負傷したらどちらかが隙を見て相手を回復する。&br;もちろん魔虫の攻撃をタマキに向かせるようなことはしない。&br;&br;戦っているうちに、&br;カイエの心の中にわだかまっていた重苦しい気持ちが消えてゆく。&br;(無心で戦っているときは息が合っているのにな……)&br;&br;気づけば、あたりに夕闇が迫る時刻になっていた。&br;&br;「もうやだー!」&br;&br;はっとなってカイエは振り返った。&br;弓を下ろして、タマキが棒立ちになってしまっている。&br;「な、何、やめちゃってんだよ。気を抜くとあぶねーぞ!」&br;慌てて駆け寄る。&br;「どうしてあたしたち、こんなところにいるんだろう……」&br;「言いだしたのは、おまえのほうじゃねーか」&br;「ばか」&br;傾いた夕日にタマキの横顔が赤く染まっている。&br;「おまえ……泣いてんのか?」&br;カイエは立ち尽くしたまま何も言うことができなくなり……。&br;&br;「あー、こんなとこにいた!」&br;声に振り返ると、逆光の中をふたりに向かって走ってくる小さな影がひとつ。&br;「チェキキ?」&br;カイエの手前で急停止すると、チェキキが言う。&br;「ほらほらイベントが終わっちゃうわよ!」&br;「へ?」&br;&br;気づけば、ふたりそろって浴衣を着せられ、&br;なぜか《ル・ルデの庭》にいた。&br;&br;「ほら、ぐるっと周ってきなさい」&br;「お、俺たち。いや、俺は参加するなんてひとことも……」&br;「あんたたちで最後だから。みんな競売所前で待ってんのよ!」&br;&br;聞く耳持たずに言い残して、チェキキは風のように走っていった。&br;&br;「ど、どうする?」&br;当惑しつつ、カイエはタマキのほうに振り返って。&br;数秒、頭の中が真っ白になってしまった。&br;浴衣姿の彼女がとても……。&br;「な、なによ?」&br;ぶっきらぼうにタマキが言った。&br;「かわいいな、って。あ、ちが──」&br;てっきり怒鳴られると思って身構えたら。&br;まさか、真っ赤になってうつむくなんて。&br;反則だろ、&br;と、カイエは思う。&br;まだ彼女の目は赤いままだった。胸の奥がなぜかちくんと痛んでしまう。&br;&br;どちらからともなく、歩き始める。&br;ふたりの間は、付かず離れずの半歩の距離。&br;肩が触れそうで触れない。&br;それなのに、どちらも手ひとつ伸ばすわけでなく、&br;声をかけるでもなく、&br;ただ無言のままジュノ最上階を歩いていた。&br;&br;大公宮殿の前を過ぎると、もうすぐにゴールだ。&br;仲間たちが待っているのが見えてくる。&br;競売所の上の空にも藍色の夜が降りてきていた。&image=im00;&br; &image=hr03;&br; 「結局、何もしなかったな……。歌くらい、歌うか?」&br;思い切ってカイエは言ってみた。&br;「しないんじゃなくて、できないんでしょ」&br;「な、なんだよ、それ!」&br;「ごめん。忘れて。あたしも同じだし」&br;「同じって何を言って……おまえ……」&br;また泣いてんのかよ、と。&br;言おうとして、彼女の手が何かを握りしめているのに気づいた。&br;帰還の魔法の呪符だ。&br;「あたし帰る」&br;「お、おい!」&br;止める間もあらばこそ、彼女は握りしめた呪符の力を解放し始める。&br;「待て。ちょっと待てってば」&br;呪符の表面に淡い魔法の光が躍り始めた。&br;宵闇を切り裂くように光が彼女の全身を包む。&br;&br;「行くなよっ!」&br;カイエは、とっさに呪符を握る手を抑えて呪文の発動を防いだのだ。&br;効果を発揮しそこねた魔法が、ぱんと空間に渇いた音を立てて消えてしまう。&br;「離してよ」&br;「や、やだよ! おまえ消えちゃうじゃんか」&br;「離して! もういいの! もうやだ!」&br;涙を散らして叫ぶタマキに、思わずカイエも言い返した。&br;「離さねー!」&br;「なんでよ!」&br;「ま、まだ手も繋いでないじゃんか!」&br;&br;言ってから気づいた。&br;じとっとした目でタマキが手首を見つめている。&br;カイエが掴んだ手首を。&br;「あ、いや、これは……ちがうんだ。その……だって」&br;「痛い」&br;上目遣いで睨まれて、カイエは慌てる。&br;「お、俺は、手を握りたいだけであって、&br;決して、意地悪をしようとかそーゆーんじゃないから!」&br;「繋ぎたいの?」&br;「あ……うん。そう」&br;「ん」&br;手を差しだされた。&br;その小さな手を、カイエは今度はそっと握る。&br;タマキの手は、柔らかくて温かかった。&br;&br;その瞬間に口笛と歓声と拍手が沸き起こった。&br;顔を上げると、いつの間にかリンクシェルの仲間たちと、&br;見知らぬ冒険者たちが、カイエとタマキに声援を送っている。&br;自分たちの行動がぜんぶ見られていたと気づいて、&br;ぼん、と、まるで音を立てたみたいに、ふたりの顔が真っ赤に染まった。&br;&br;それでも、&br;カイエとタマキのふたりは、&br;互いに握った手をずっと離さなかった。&br;&br;「ねぇ。さっきのって、短冊を書いてたんでしょ? なんて書いたの?」&br;「うええ? い、言わないよ!」&br;カイエの真っ赤になった顔を見上げながら、&br;「あたしはねぇ」&br;タマキが言った。&br;その言葉に、カイエは驚いたのだ。&br;短冊に、&br;カイエもタマキも、まったく同じことを書いていた。&br;&br;ジュノ最上階を夜の風が吹き抜けてゆく。&br;ミルク色の大河が天球をゆっくりと回る。&br;毎年恒例の銀河祭。&br;けれども、今年の夏は少しだけいつもと違っていた。&br;&br;願いを掛けた言の葉は。&br;&br;『どうか、素直になれますように』&image=im00;&br; &image=im00;&image=10509_5.png; Story : Miyabi Hasegawa&br;Illustration : Mitsuhiro Arita&image=im00;&br; &image=hr02;&br; &li=ng01;開催期間&li;&br; 銀河祭は2013年6月25日(火) 17:00頃から7月9日(火) 17:00頃までを予定しています。&image=im00;&br; &image=hr03;&br; &li=ng01;モーグリの出現場所&li;&br; モーグリに話しかけると、イベント内容を聞くことができます。&br;&br;北サンドリア(D-8)/バストゥーク商業区(G-8)/ウィンダス水の区(北側)(F-5)&image=im00;&br; "