" &image=ctgic; &style=stDetail1;2010/12/13 読み物&style;&br; &style=stDetail2;〜ぬくもりの在りか〜&style;&br; &br; 冬の日。寒い夜は暖かな炎の側でくつろぎたいもの。&br;&br;どうやらジュノ居住区の片隅でも、同じことを考えている冒険者たちがいるようです。星芒祭の夜に、とある冒険者たちのパーティに起きた、ささやかなぬくもりに満ちた出来事をお伝えしましょう。&br;&br;&br; &image=hr02;&br; &image=hr03;&br; ボリアーグはガルカ族の狩人で銃使いだった。&br;&br;「くっくっく。俺のアナイアレイター……存分に磨いてやろう」&br;「うわ。やだ、なにこのヒト。銃に話しかけながら磨かないでよ!」&br;「ほ、ほっとけ!」&br;&br;仲間のミスラの言葉にボリアーグはたいそう傷ついた表情へと変わる。彼のもつ銃は極めて珍しいもので、手にいれるまでに、それは大変な苦労をしたものなのだ。大切にして何が悪い、と彼は思う。こうして乾いた布で毎日磨いてやるなんて当たり前のことではないか。&br;&br;「まあ、確かに苦労したよねぇ。ユッテ、君も言いすぎはよくないよ」&br;「エオラール……でもさぁ」&br;「うん。そうだね。ねぇ、ボリアーグ。銃をストーブの近くで磨くのはどうかと思うんだ」&br;&br;諭してきたエオラールは、エルヴァーンのナイトで、今日のためにストーブをこの部屋に持ち込んできた当人でもあった。&br;&br;「弾は抜いてあるし、火に当たらぬよう、こうして背中で遮っておるわい!」&br;「君の巨体がそこに陣取っていると、遮られて私は寒いんだけどね。何が楽しくて君の仏頂面を見てなくちゃいけないのだか。せっかくのストーブの優美な装飾も見えやしない」&br;「ふん。ストーブに飾りなんぞいらん。きさまにバストゥーク製の逸品を見せてやりたいぞ。余計な飾り気などないし、あの青い炎はどの暖炉よりも暖かいのだ」&br;「あれは、無粋、というのだよ」&br;&br;言い放ったエオラールを、ボリアーグは睨みつけた。まったく、ユッテといい、このエオラールといい──ん? その、ユッテは俺に文句を言っておいて静かだな?&br;横を見たら、ミスラの赤魔道士はストーブの脇で丸くなっていた。&br;&br;「ぐうぐう」&br;「寝たふりしてるんじゃない!」&br;「んー。でも、ほんと眠いしー。おなか空いたしー。あーでもぉ」&br;&br;とろんとした目つきのまま、ユッテが言い張った。&br;&br;「ストーブはやっぱりウィンダス製だよぉ。小さいけどさぁ。魔法の炎だから、安全性は保障付き〜。近くで丸まっててもだいじょうぶ〜」&br;「あれは小さすぎると思うね、私は。部屋が暖まりゃしないよ」&br;「魔法なんぞ、いかがわしいわい」&br;「なんだってぇー」&br;「はいはいはい。みなさん、ケンカは駄目ですよー」&br;&br;睨みあうボリアーグたちに声が掛かり、奥の扉が開いた。入ってきたのは、このジュノでモグハウスを借りている主であり、パーティの四人目、ヒュームの白魔道士の娘・マユキだった。&image=im00;&br; 「なあに? マユキったら、その格好」&br;「おかしいですか? 星芒祭ですし」&br;「まぬけだぁ」&br;&br;ユッテが遠慮ない言葉を吐いた。マユキはスマイルブリンガーの格好をしていたのだ。そこまではいい。だが、その格好の上からマンドラゴラ柄のエプロンをして、両手にはぶかぶかの鍋つかみをした上に大きな鍋をもっていると、確かにマヌケと言われてもしかたない。&br;&br;「ほらほら、ちょっとそこを空けてくださいな、お料理を置きますから」&br;マユキが両手で持っていた鍋をストーブの上にどんと置いた。&br;「ほうら」&br;&br;と言いながら蓋を持ち上げる。白い湯気が鍋全体からほわんと立ち上り、いい匂いがボリアーグたちの鼻をくすぐった。お腹がたまらずにぐうと鳴る。&br;&br;「これは……」「ひょっとして」「寄せ鍋だぁ!」&br;「はい。しかも、今回はすっごくすっごくうまく味付けできました!」&br;&br;にっこりとマユキが微笑む。&br;&br;「寄せ鍋か。あの、数多の食材を汁で煮ながら、みなで食べられるようにしたという東方伝来の鍋料理!」&br;どこかで聞いたような説明をエオラールがまくし立てた。&br;「うんうん。さっすが鍋奉行だよねっ。マユキ、すっごい!」&br;「ありがとうございます。じゃあ、取り分けますけど。えーと、もうケンカはお終いにしていいんですよね? 星芒祭なんだからみんな仲良くしなくちゃ、食べさせてあげませんよ?」&br;&br;三人ともが鍋を覗き込み、ごくりと唾を呑んだ。&br;&br;「ケ、ケンカなんてしてないよっ、マユキ。うん、あたし、サンドリアのストーブの飾り模様もきれいだなって思ってたし!」&br;「ユッテ、君ね……。まあ、私もバストゥークの工業技術を認めていないわけではないんだよ、実際ね」&br;エオラールが言った。磨いていた銃を背負い袋の中にしまいこみ、最後にボリアーグも「ウィンダス製が持ち運びに便利なことは認める」と付け足した。&image=im00;&br; くすくすと笑いながら、マユキが各々の皿に具材を取り分ける。&br;ふと振り返ったユッテが、立ち上がって窓を開けに行った。換気を気にしたのだろう。ぱたぱたと足音を立てて戻ってくると、「星がきれいだよ」と言った。&br;&br;「食べ終わったら、みんなでル・ルデの庭に星を見に行ってみましょう」&br;&br;三人ともが頷く。&br;料理は熱々で食べていると身体の奥の奥まで温まってくる。四人が囲むストーブの炎はゆっくりと燃えて、部屋を暖め続けていた。鍋の中身がまたたく間になくなってゆく。食べながら四人は今年の冒険を振り返り、思い出話に花が咲いた。&br;&br;「今年も、終わるねぇ……」&br;「早いですよね」&br;「来年はどんな年になるかなっ」&br;「決まっているわい」&br;&br;ボリアーグは言った。&br;&br;「冒険が続くのだ」&br;&br;冬のジュノは凍てつくような寒さで、けれどもその部屋の中は温かかった。&br;そのぬくもりが、鍋の温かさやストーブの炎だけで生み出されたものでないことは、もちろんボリアーグたち四人ともが分かっていた。&image=im00;&br; &image=im00;&image=6081_4.png; Story : Miyabi Hasegawa&br;Illustration : Mitsuhiro Arita&image=im00;&br; &image=hr02;&br; "